解決事例・コラム(GK総合法律事務所)

役員辞任|20年以上勤めた会社の取締役を体調不良で辞任し、受任6日で辞任登記の申請まで完了した事例

2026年08月07日 10:33

20年以上にわたって勤めた会社で取締役を務めていたご依頼者様が、体調を崩されました。数年のうちに命に関わりうる発作を繰り返し、直近も入院と手術。主治医からは相当期間の療養が必要と判断され、心身の両面から就労を続けることが困難な状態と診断されていました。

それでも「長くお世話になった会社に、自分からは言い出せない」というお気持ちが強く、身動きが取れずにいらっしゃいました。

ご相談の翌々日には会社への通知を発送し、ご依頼者様が会社と一度も直接やり取りをすることなく、取締役の辞任が成立。ご相談から6日後には、会社による辞任登記の申請まで進みました。

弁護士小澤亜季子が代理人として対応した事例をご紹介します。

こんな方に読んでいただきたい

  • 体調を崩して役員を続けるのが難しいが、会社に自分からは切り出しづらい方

  • 辞任を申し出ても「今は困る」「もう少し頑張れないか」と引き留められそうで動けずにいる方

  • 辞任したら会社から責任を問われるのではないかと不安で、踏み出せずにいる方

この記事で分かること

  • ご依頼者様:取締役と従業員を兼ねていた方(20年以上勤務)

  • 相手方:勤務先の会社

  • ご相談の対象:取締役の辞任と、従業員としての退職

  • 最大のポイント:会社と直接やり取りをせずに、辞任・退職・登記まで進められるか

  • 解決結果:辞任が成立し、翌日に会社が辞任登記を申請。ご本人が会社と直接やり取りをした場面はなし

  • 期間:受任から6日で役員辞任の登記申請まで(退職に伴う手続のやり取りは、その後も継続)

ご相談前と解決後

  • 会社への申し出:20年以上の付き合いがあり、自分からは辞任を切り出せない → 弁護士名義の通知1通で、辞任と退職の意思表示が完了

  • ご本人の負担:療養が必要な状態でも、辞めるには会社と話し合わなければならない → 会社に出向かず、直接のやり取りもないまま手続が進行

  • 登記上の地位:取締役として登記に名前が残ったまま → 辞任の翌日に会社が辞任登記を申請(後日取得した登記簿で確認)

  • 辞任に伴う責任:「今辞めたら責任を問われるのでは」という不安 → 療養の必要性と引継ぎ状況を整理したうえで辞任

ご相談の背景 ─ 「揉めたいわけではない。ただ、言い出せない」

ご依頼者様は、同じ会社に20年以上勤め、数年前から取締役に就任していました。従業員としての立場も併せ持つ、いわゆる兼務役員です。

体調の問題は、一時的なものではありませんでした。数年のうちに発作を複数回繰り返し、そのたびに入院や手術を要する状態で、直近の発作でも入院・手術を経ています。主治医からは、身体面に加えて心理面の負担も指摘され、相当期間の療養が必要との判断が示されていました。

ところが、この会社には休職の制度がなく、過去に休職した役員の例もありませんでした。休んで様子を見るという選択肢が、そもそも用意されていなかったのです。

ご相談で、ご依頼者様は繰り返しこうおっしゃっていました。

20年以上お世話になってきた会社です。辞めるとは言いづらいし、理解いただけないとも思う。揉めたいわけでもない。ただ、「辞めます」と自分の口から言うのが、しんどい。

自分で伝えれば「一度休んで、また頑張ればいい」と引き留められるだろう。役員という立場である以上、急に辞めることへの責任も感じてしまう。情や義理が絡むからこそ、第三者に間に入ってほしい——それがご相談の動機でした。

ご本人は、会社と争うつもりはありませんでした。求めていたのは、波風を立てずに、確実に、早く辞めることの一点でした。

役員の辞任・退任でお困りの方は、東京都杉並区・南阿佐ケ谷のGK総合法律事務所へお早めにご相談ください。初回のご相談は30分まで無料です(30分経過後は15分ごとに5,500円・税込)。

弁護士の対応と解決のポイント

① 辞任と退職を、1通の通知でまとめて伝えた

ご依頼者様は取締役であると同時に従業員でもありました。この場合、取締役を辞任するだけでは会社との関係は終わりません。役員としての辞任と、従業員としての退職は、法律上は別の手続だからです。

そこで、同じ日付で辞任と退職の双方の意思表示を行う1通の通知を作成し、会社の代表者宛てに送付しました。通知は内容証明郵便と特定記録郵便の2つの経路で送り、「届いていない」という行き違いが起きないようにしています。

→ ご依頼者様は、辞める理由を自分の言葉で説明する場面を経ずに済みました。

② 辞める「時期」と引継ぎを押さえてから通知した

取締役の辞任でいちばん見落とされやすいのが、辞め方によっては会社から損害賠償を求められる場合があるという点です。会社と取締役の関係は委任契約とされ、各当事者はいつでも解除できます(民法651条1項)。もっとも、相手方に不利な時期に解除した場合には損害賠償の対象になり得ます。ただし、やむを得ない事由があったときは、その責任を負いません(同条2項)。

つまり実務上の勝負どころは、「辞められるかどうか」ではなく、「やむを得ない事由があると言えるか」「不利な時期ではなかったと言えるか」です。

本件では、この2点を先に固めました。療養が必要であることは主治医の判断として示されていましたので、診断書を通知とは別送して裏づけとしました。また、ご依頼者様は入院された時点で担当業務をすでに他の方へ引き継いでおり、業務の区切りがついていた——この事実も確認したうえで通知の日付を設定しています。

→ 「辞めた後に責任を追及されるのではないか」という不安の芽を、通知を出す前に摘んでおきました。

③ 「会社に行かなくて済む」ところまで通知に書き込んだ

辞めると決まっても、実務は残ります。会社に置いたままの私物、返却が必要な健康保険証、受け取るべき離職票や源泉徴収票——これらのために出社を求められれば、療養中のご依頼者様には大きな負担です。

そこで通知では、辞任と退職の意思表示に加えて、私物の処分、保険証の郵送による返却、退職に必要な書類の郵送まで具体的に依頼しました。あわせて、今後の連絡はすべて代理人宛てとし、ご本人・ご家族・知人への連絡やご自宅への訪問は控えていただくようお願いしています。

→ 結果として、ご依頼者様は退職の手続のために一度も出社しませんでした。

④ 後から効いてくる「お金の宿題」を、辞める前に確認した

辞めるときに見落とされがちなのが、給与から天引きされていた社会保険料・厚生年金・税金が、会社できちんと納付されているかという点です。未納があれば、後日ご本人に請求が及ぶことがあります。

また、役員の場合、会社が借りているオフィスや社宅の賃貸借契約について、知らないうちに連帯保証人になっていることがあります。辞任しても、その保証責任は自動的には消えません。

そこで通知の中で、未納や保証の有無を確認し、あれば代理人まで連絡するよう会社に求めました。

→ 「辞めた後に何か出てくるのではないか」という漠然とした不安を、確認すべき事項として形にしました。

解決の結果

会社側からは通知について異議は示されず、手続は速やかに進みました。

  • 辞任の効力発生:通知に記載した日付のとおり成立(受任から5日後)

  • 辞任登記の申請:辞任の翌日(受任から6日後。登記簿に記録された登記の日付。後日取得した登記簿で反映を確認)

  • ご依頼者様が会社と直接やり取りをした場面:なし

  • 会社からの損害賠償請求:なし

ご依頼者様は、療養に専念できる状態で会社を離れることができました。

弁護士からのコメント

役員を辞めたいというご相談で、いちばん多いのは「会社が辞任を認めてくれない」という紛争型ではありません。「辞めたいと言い出せない」まま、体調や気力を削っていくというご相談です。

長く勤めた会社ほど、そこには人間関係の蓄積があります。育ててもらった恩義、任されてきた責任、辞めれば迷惑をかけるという気持ち。それらは決して弱さではなく、その方が誠実に働いてきた証だと思います。ただ、その誠実さが、ご自身の健康を後回しにする理由になってはいけません。

法律の面から申し上げると、取締役の辞任に、会社の承諾は必要ありません(民法651条1項)。「辞めさせてもらえない」という状態は、本来は起こりません。

一方で、「いつでも辞められる」と「辞めても何の責任も生じない」は同じではありません。会社に不利な時期の辞任は、損害賠償の対象になり得ます(同条2項)。引継ぎをせずに突然辞めた場合や、事前の相談を一切しないまま辞めた場合は、この「不利な時期」と評価されやすくなります。また、辞任によって法律や定款で定めた取締役の人数を欠いてしまう場合には、後任者が就任するまで役員としての権利義務が残ります(会社法346条1項)。辞任の通知を出せばそれで終わり、という単純な話ではないのです。

本件が短期間で片付いたのは、療養の必要性と引継ぎの状況という「辞めてよい理由」が事実として揃っていたからです。逆に言えば、そこを確かめずに通知だけ先に出すのは危険です。ご自身の状況がどちらなのかは、辞める前にご相談ください。

よくある質問

Q. 会社が「認めない」と言った場合、取締役を辞めることはできないのでしょうか?

A. いいえ、辞任に会社の承諾は必要ありません。会社と取締役の関係は委任契約とされ、各当事者はいつでも解除することができます(民法651条1項)。辞任の意思表示が会社に到達すれば、辞任の効力そのものは生じます。ただし、辞任によって法律または定款で定めた取締役の員数を欠くことになる場合は、後任者が就任するまで役員としての権利義務が残ります(会社法346条1項)。この場合は「辞めたのに責任だけ残る」状態になりますので、辞任の前に員数を確認しておく必要があります。

Q. 辞任したことで、会社から損害賠償を請求されることはありますか?

A. あり得ます。委任を解除した者は、相手方に不利な時期に解除したときは相手方の損害を賠償しなければならないとされているためです。ただし、やむを得ない事由があったときは、その責任を負いません(民法651条2項)。したがって実際に問題になるのは、「辞めたこと」自体ではなく、辞めた時期と、やむを得ない事情があったといえるかです。療養が必要な健康状態は、この「やむを得ない事由」を基礎づける代表的な事情の一つです。

Q. 診断書があれば、辞任して問題ないということですか?

A. そう単純ではありません。診断書は、就労が困難な状態にあることを客観的に示す資料として重要ですが、1通あれば当然に責任を免れるというものではありません。実際には、症状の重さや継続している期間、療養の必要性についての医師の判断、そして業務の引継ぎがどこまでできているかといった事情を、総合的に見て判断されます。本件のご依頼者様は、発作を繰り返して入院・手術に至っており、担当業務も引継ぎ済みでした。

Q. 引継ぎはどこまでしなければいけませんか?

A. 辞任したのに無期限に働き続けなければならない、ということはありません。ただし、引継ぎをまったくせずに突然辞めた場合には、前問の「相手方に不利な時期の解除」と評価されやすくなります。逆に言えば、引継ぎは会社への義理というより、ご自身が損害賠償を求められるリスクを下げるための備えです。現実的な対策は、辞める意思を伝える前に担当業務の区切りをつけておくこと、それが難しい場合は、引き継ぐ範囲と期限を「ここまでやったら終わり、登記も入れてください」と条件として明示することです。

Q. 辞任したのに、会社が辞任登記をしてくれないときはどうすればよいですか?

A. 登記を申請する義務は会社にあります。まずは代理人名義の通知で速やかな登記を求め、完了後に登記簿謄本の写しを送るよう依頼するのが実務的な第一歩です。それでも会社が応じない場合には、裁判所の手続を通じて登記を求める方法もあります。登記に名前が残り続けると、取引先や金融機関からは在任中と見えてしまいますので、放置しないことをおすすめします。

役員の辞任・退任でお困りの方へ

「辞めたいけれど、自分からは言い出せない」——そのお気持ちのまま時間だけが過ぎてしまうことは、決して珍しくありません。まずはお話を聞かせてください。

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弁護士 小澤 亜季子(東京弁護士会所属)

※本記事は実際に取り扱った事案をもとに、ご依頼者様が特定されないよう内容を変更・抽象化して記載しています。事案の内容によって結果は異なり、同様の結果を保証するものではありません。